「 さよならとありがとう 」
あの人が死んだ。
その、世間一般的には“喜び”の知らせは、私の心にズキリと刺さった。
嗚呼、あの人は死んでしまったのか。
不思議と涙は出ないし、悲しみもない。
ただあるのは、虚無感。
私の中の何かが一つ欠落してしまった感覚。
あの人と出会ったのは、いつの日か・・・。
雨の降っているゴドリックの谷での事。
私は傘も持たずにその場に立ち尽くしていた。
今はポッター夫妻の眠る場所。
人の気配に後ろを振り向けばあの人。
ヴォルデモート卿がいた。
別段、怖くもなかった。ただ・・・。
ただ酷く・・・その人が寂しそうに見えた。
「あなたはどうしてそんなにも、寂しそうなんですか?」
思ったままの言葉を口から滑らせれば・・・思いもがけぬ言葉が返ってきた。
「さぁ・・・。」
と。私は、正直驚いた。
だって、この質問はヴォルデモート卿を怒らせる様なくだらない質問だったから。
人を愛する事を知らなかったあの人。
今でも信じられないのは、私を傍に置いた事。
計画に賛同も反対もしない私を信頼していたという事。
私は、この世界がどうなろうとどうでもよかった。
だからこそなのか・・・私は唯一あの人から寵愛を受けていた。
私もあの人を愛していたし、あの人も私を愛していた。
ただ、それは私たちだけがわかりきっていた事であって、周りに聞いてみたって。
「そんな風には見えなかった。」と答えるであろう間柄であったが・・・。
一つ言える事実は、愛し合っていたという事。
亡きダンブルドアは、ヴォルデモート卿は愛を知らないと言っていた。
それは、半分正解で・・・半分不正解。
知らなかった事は事実。しかし、それを受け取っていたのもまた事実。
「・・・。」
名前を呼ばれた気がして振り向けばそこにいたのは・・・。
「・・・どうして?」
静かに佇む卿の姿。
「あなたは死んだはず。」
「そうだ。・・・だから迎えに来た。」
迎えに・・・か。
「いいえ、私はあなたと一緒に行きません。行けません。」
卿の顔が苦痛に歪むのがありありと分かった。
「どうしても、どうしてもか?」
「・・・どうしてもです。」
「何故?私は、お前と共に歩みたい。出なければ怖い。」
怖い、ヴォルデモート卿から出た初めての言葉。
「私は、自分が裏切った者達が。自分が殺めてしまった者達が怖くて、怖くて仕方がないのだ。」
「それでも・・・それでも、歩まねばいけません。あなたは数々の大罪を犯しました。それは許されざるものではありません。しかとその罰を受けなければ。」
「だが、しかし。」
「その罰を受け、しっかりと私を待っていて下さい。」
卿の目を・・・赤い眼を真っ直ぐと見つめ言う。
「私は、生を全うし・・・あなたの犯した罪の残りを現世で変わりに償いますから。」
「・・・。」
微笑みを向ければ、こくりと小さな頷きの後・・・ふっと消えた。
生暖かい雫が頬をすべり落ちていくのを感じた。
「 さよならとありがとう 」
誰もあなたに涙を流さないから私があなたに涙を贈ります。
私を愛してくれてありがとう。
そして、次に会うまでさようなら。
次は・・・次は、平穏で平和な世界で会いましょう。
END
久々のハリポ。
第7巻を読み終え、ヴォル様が・・・。
悪役だったけど、大好きだったヴォル様。
本当に本当に大好きでした。