どきどき、どきどき。
この想いは。
「 嗚呼、その名は 」
ちらり、と少し前を歩いてる薬売りさんを盗み見る。
どきん、どきん。
胸がきゅーって苦しくなって、どきどきする。
「私の・・・顔に、何かついて いますかい?」
ふいに合う目と目。
どきって、さっきと違うけど胸が鳴った。
「う、うん。なんでもないよ。」
そう素っ気無く返事をするが、薬売りさんは私の心の中を見るかの様にじっと私の瞳を・・・。
否、瞳の中を探るように見つめる。
その目に耐え切れなくなって下を向けば、何も言わずに私の頭を優しく撫でてまた歩き出した。
たぶん、顔は見えないから本当かどうかはわからないけど・・・優しく笑ってくれてた。
と思う。
・・・だって薬売りさんの空気がとても暖かかったから。
そう思ったら、また胸がきゅーって苦しくなった。
なんなんだろう・・・この痛みは。
痛くて・・・でも、痺れる様な甘い感覚。
薬売りさんは私の恩人。
私は神様"だった"。
"だった"っていうのは、私にはもうそんな力はないから。
薬売りさんと出会った時は、私はある屋敷に幽閉されていた。
大きな力を持つ私を使ってなにかをしようとしていたらしい。
その時は、
辛くて、怖くて、寂しくて・・・悲しくて。
力が暴走してしまいそうだった。
そんな私を救ってくれたのは薬売りさん。
ひょっこりといつの間にやら現れた薬売りさんは私を外の世界へと連れ出してくれた。
初めて見るもの全てを私に教えてくれた。
なにより・・・私の居場所を作ってくれた。
薬売りさんは私の恩人。
あの時のことを思い出すと心が暖かくなる。
「?」
名を呼ばれてぱっと顔を上げれば、少し困った様に笑う薬売りさん。
「・・・何?」
胸を指差された。
・・・?
「ずっと そこを 押さえているので、ね。」
その言葉に力を込めた手を緩めた。
「痛い、のか?」
「・・・うん?」
自分でも分からない。
きゅーって締め付けられるように苦しくなったり。
甘い痺れを感じたり。
暖かくなったり。
分からない、分からない。分からない・・・。
これは?
「薬売りさん・・・。」
「はい?」
「ここがね、痛かったり、痺れたり、暖かかったりするの。・・・なんでかな?」
そう言うと薬売りさんは、少し驚いた様な顔をして、そして嬉しそうに軽く微笑んだ。
「 嗚呼、その名は 」
「恋しい という気持ち、だ。」「"こいしい"?」「が知るには・・・もう少し したらで良い、さ。」
無知なヒロイン。神様で下界から隔離されていたので何も知らない。
0816:紫想 奈穂