私は罪深き人間です。
・・・いえ、もう人間ではないかもしれません。
私はあまりにも血を浴びすぎました。
私は人間とも呼べず、妖怪とも呼べない賤しい半妖なのです。
どうかどうか、この罪をお赦し下さい。
そして。
そのモノたちに罰を与えるお許しを・・・。
「優しいシロ」
一面真っ白なその場所に一人の薬売りがいた。
その者は奇抜な格好をしており、赤い隈取に女物と思われる艶やかな着物。
そして・・・先ほどからカタカタと音をたてている薬箱を背負っている。
その男は、何かを考えるように白の先を見つめた。
辺りから活気のある村人の声が聞こえる。小さな村ながらとても賑やかだ。
そんな中をカラン、コロンと軽やかな音を響かせながら娘は歩いている。
そんな村の雰囲気とは反対に娘は無言でずんずんと進む。
「どうか、あの人に合いませんように・・・。」
沈痛な面持ちで呟く娘は、ある一点を見つめてある場所へ進んでいった。
がらり。派手な外装の建物に入っていく。
どうやら湯屋のようだ。
「おや、奇遇ですね。」
ビクリと肩を震わせ後ろを振り向けば。
「薬売り・・・。」
そう。あの奇抜な格好をした薬売りがそこにはいた。
「何故、貴方がここに?」
若干、警戒しながらも問うてみれば。
「それならば・・・何故、も・・・ここに?」
問いを問いで返される始末。
「・・・別に、貴方に関係ない。」
「そう、ですか・・・。ならば私も、理由を話す義理は・・・ない。ですよね?」
その薬売りの言葉にはギリリと苦虫を潰したような顔をして薬売りを睨みつける。
「知っているくせに・・・。」
「おや、何を・・・ですかい?」
「意地の悪い人。」
「誰のことやら。」
は一つ息を吐き出すと薬売りを軽く睨みつけて【女湯】と書かれた暖簾を潜り抜けていった。
「相当、嫌われているようですね。」
くすくすと薬売りは楽しそうに笑っている。その顔は、『意地の悪い人』そのものだった。
湯気の立ち込めるそこは、人で溢れていた。
は、湿気を含んだ重たい空気を吸い込み、そして。
「破!」
指で印を結び一気に吐き出す。
その瞬間、すべての時が止まる。
立ち込める湯気は辺りに怪しく漂い、辺りが薄暗くなる。
ゆらり、ゆらり。
現れたのは異形のモノ。
「ごめんなさい。別にアナタに怨みがあるわけじゃないけど・・・私の為に、斬られてね?」
それは一瞬で。まるでは踊るかのように軽やかにトンっと前にでると恭しく礼をし。
斬った。
全身を濡らす赤。
は静かに一滴の涙を落とした。
サク、サク、サク。
白が埋め尽くす中をは途方もなく歩いていた。
「・・・っ。」
そんな中、の行く路を塞ぐ男―――薬売り。
は咄嗟に上に羽織っていた物をきゅっと握る。
それは先ほどついてしまった赤(すでに落としたのだが)を隠すためか・・・。
「貴方に何を言われようが関係ない。・・・そこを退いて。」
「・・・私は、を責めようとは思って、いませんよ。」
「じゃあ?!」
「ただ、悲しそうな・・・顔を、していたから・・・。」
薬売りがそう言った瞬間、の中で何かが弾けた様に大きな声をだし叫ぶ。
「薬売りの貴方になにが分かるっていうの?!私のすべてを知ったような言い草!思い上がりもいいとこだわ!なにも知らないくせに!」
「ええ、知りませんよ・・・。でも、貴女が悲しそうな顔を・・・するのが耐え切れないん、ですよ。」
真っ直ぐ見つめてくる薬売りの視線に耐え切れなくなったは白の世界を駆け出した。
―――どうして、どうして私に優しい言葉をくれるの?
―――どうして、どうして私は優しい言葉を貰う資格なんてないのに!
―――どうして、どうして私は賤しい半妖なのに。
―――どうして、どうして、どうして!
ズルっ。
落ちる。重力に従い谷底に落ちようとする身体。
―――嗚呼、私はここで朽ちた方が良いのかもしれない。
なにもかも諦め目を閉じると・・・。
「っ!」
何者かに抱きかかえられる感触。
「何も言わなくていい、今は・・・このシロで罪を隠してしまえばいい。」
耳元で言われた言葉が身体にすっと染み込んでいく・・・。
嗚呼、お願い今だけは・・・。
は、そっと薬売りの背中に腕を回した。
「 優しいシロ 」
「どうかどうか、雪よ止まないで。」「もう一時だけ罪深き私に休息を・・・。」「どうか。」
分かりにくかったと思うので説明。
ヒロインさんは、あるトラウマを抱えていて、ある事件がきっかけで人間から妖怪へとなろうとしている。
そんななか出会った薬売りさん。
毎回、邪魔をしてきたり。やめろと言ったり。
とにかく邪魔をしていた。愛故にです。
そんな薬売りさんを鬱陶しく思いつつも少しずつ惹かれている。
みたいな裏設定。(長い)